マイナス鎖RNA

minus strand RNA
難易度

そのままでは、タンパク質を作れないRNA

Key Points

マイナス鎖RNAは、mRNAと相補的な配列をもつ一本鎖RNAです。

細胞のリボソームは、マイナス鎖RNAをそのまま読んでタンパク質を作ることができません。

そのため、マイナス鎖RNAウイルスは、まず自分のRNAをもとに**mRNAを作る(転写する)**必要があります。

麻疹ウイルスのゲノムも、マイナス鎖RNAです。

3分でわかる

RNAウイルスの中には、遺伝情報を一本鎖RNAとして持つものがあります。

その一本鎖RNAは、タンパク質を作るためのmRNAとの関係によって、プラス鎖RNAとマイナス鎖RNAに分けられます。

プラス鎖RNAは、基本的にmRNAと同じ向きの情報を持っているため、細胞に入るとリボソームによって直接読み取ることができます。

一方、マイナス鎖RNAはmRNAと相補的な配列になっています。

そのため、マイナス鎖RNAそのものをリボソームが読んで、ウイルスのタンパク質を作ることはできません。

そこで必要になるのが、**RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)**です。

この酵素がマイナス鎖RNAを鋳型として、タンパク質合成に使えるmRNAを作ります。

マイナス鎖RNA → mRNA → タンパク質

という順番です。

麻疹ウイルスも、一本の連続したマイナス鎖RNAをゲノムとして持つ「非分節型マイナス鎖RNAウイルス」です。

麻疹ウイルスでは、Lタンパク質を中心とするRNAポリメラーゼ複合体が、ゲノムRNAをもとにmRNAを作ります。

ここには、マイナス鎖RNAウイルスならではの重要な問題があります。

ウイルスが細胞に入った直後には、まだ新しいウイルスタンパク質は作られていません。それなのに、マイナス鎖RNAからmRNAを作るには、最初からRNAポリメラーゼが必要です。

そこで麻疹ウイルスは、Lタンパク質とその補助因子であるPタンパク質を、あらかじめウイルス粒子の中に持って細胞へ侵入します。

つまり麻疹ウイルスは、遺伝情報であるRNAだけではなく、その情報を最初に読み出すための道具まで一緒に運んでいるのです。

さらに、RNAポリメラーゼにはもう一つの仕事があります。

新しいウイルスを作るには、mRNAだけではなく、新しいマイナス鎖RNAゲノムそのものも増やさなければなりません。

そのときは、

マイナス鎖RNA → プラス鎖の完全なコピー(アンチゲノム) → 新しいマイナス鎖RNA

という経路でゲノムを複製します。

このように麻疹ウイルスでは、同じゲノムRNAをもとに、

タンパク質を作るための「転写」
と
ゲノムを増やすための「複製」

という二つのRNA合成が行われています。

図でわかる

ここにSVG画像、イラスト、またはアニメーションを配置します。

このサイトでは

「麻疹ウイルスのRNA」「ゲノムRNA」と書かれている場合、その中心となるのがマイナス鎖RNAです。

麻疹ウイルスが細胞へ侵入すると、マイナス鎖RNAを含むRNP(リボ核タンパク質複合体)が細胞質へ入ります。

ゲノムRNAはNタンパク質に包まれており、Lタンパク質とPタンパク質からなるRNAポリメラーゼ複合体が、このRNAを使って転写と複製を行います。

麻疹ウイルスが「RNAだけでは増えることができない」理由を理解するうえで、マイナス鎖RNAは重要なキーワードです。

研究とのつながり

麻疹ウイルスは、非分節型マイナス鎖RNAウイルスです。

そのゲノムRNAはNタンパク質に包まれたヌクレオカプシドとして存在し、L・Pタンパク質からなるRNAポリメラーゼ複合体によって転写・複製されます。

そのため、麻疹ウイルスを研究用・治療用ウイルスとして設計するときにも、「マイナス鎖RNAからどのようにmRNAが作られ、どのように新しいゲノムが複製されるのか」という仕組みを理解することが重要です。

特に組換え麻疹ウイルスでは、ゲノム上の遺伝子配置や転写制御が、ウイルスタンパク質や導入した遺伝子の発現に関係します。