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01|ウイルスとは

病気を起こすだけではない、
小さな存在

ウイルスは細胞の仕組みを借りて増える存在で、その能力は医療にも利用され始めています。

「ウイルス」と聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。

インフルエンザ、新型コロナウイルス、麻疹など、多くの人はまず感染症を思い浮かべるかもしれません。たしかに、ウイルスの中には人に感染し、病気を引き起こすものがあります。しかし、ウイルスは単なる「病気の原因」ではありません。

ウイルスは非常に小さく、自分だけでは増えることができません。その代わり、細胞の中へ入り込み、細胞が持っている仕組みを利用して増えていきます。この「細胞へ入る」「遺伝情報を届ける」という性質は、医療にも利用されています。がん細胞を狙う「腫瘍溶解ウイルス」も、その考え方から生まれた研究分野の一つです。

まずは、ウイルスとは何なのかを見ていきましょう。

ウイルスは、どれくらい小さい?

ウイルスは、私たちの体をつくる細胞よりも、はるかに小さな存在です。一般的な人の細胞は、およそ10〜100マイクロメートルほどあります。一方、多くのウイルスは、数十〜数百ナノメートルほどです。ナノメートルは、1ミリメートルの100万分の1の大きさです。

そのため、多くのウイルスは、普通の光学顕微鏡では詳しく観察できません。電子顕微鏡などを使うことで、その形や構造を詳しく調べることができます。ただし、ウイルスの大きさには幅があります。非常に小さなウイルスもあれば、一部には比較的大きなウイルスもあります。「ウイルスはすべて同じ大きさ」というわけではありません。

「細胞」とは違うウイルス

私たちの体は、細胞からできています。

細胞は、外界と隔てる細胞膜を持ち、内部ではさまざまな生命活動が行われています。また、細胞はタンパク質をつくるための装置や、エネルギーを利用する仕組みを持っています。ところが、ウイルスには、こうした仕組みがすべてそろっているわけではありません。ウイルスは自分だけで、新しいウイルスをつくることができません。そこで、別の生物の細胞へ感染します。ウイルスが感染する相手の生物や細胞を、「宿主」と呼びます。ウイルスは宿主細胞の中へ入り、細胞が持つ仕組みを利用します。その結果、新しいウイルスがつくられます。この点が、ウイルスを理解するうえで、とても重要な特徴です。

Viruses infect cells and spread.

ウイルスにある「設計図」

ウイルスにも遺伝情報があります。遺伝情報とは、ウイルスの構造や働きをつくるための情報です。その情報を担う物質には、DNAとRNAがあります。人の細胞ではDNAが遺伝情報を持っています。

一方、ウイルスには、DNAを持つものとRNAを持つものがあります。たとえば、ヘルペスウイルスはDNAウイルスです。インフルエンザウイルスや麻疹ウイルスは、RNAを遺伝情報として持っています。ただし、RNAウイルスの中でも、RNAの使われ方や増え方はさまざまです。

ウイルスの分類では、こうした遺伝情報の違いも重要になります。このサイトで取り上げる麻疹ウイルスは、「マイナス鎖RNAウイルス」と呼ばれる仲間です。詳しい仕組みは、麻疹ウイルスのページで説明します。

二本鎖DNAウイルス

Double-stranded DNA viruses

代表例のウイルス

アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス

一本鎖DNAウイルス

Single-stranded DNA viruses

代表例のウイルス

パルボウイルス

二本鎖RNAウイルス

Double-stranded RNA viruses

代表例のウイルス

ロタウイルス

プラス鎖一本鎖RNAウイルス

Positive-sense single-stranded RNA viruses

代表例のウイルス

ポリオウイルス、コロナウイルス

マイナス鎖一本鎖RNAウイルス

Negative-sense single-stranded RNA viruses

代表例のウイルス

麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス

一本鎖RNA逆転写ウイルス

Single-stranded RNA reverse-transcribing viruses

代表例のウイルス

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)

二本鎖DNA逆転写ウイルス

Double-stranded DNA reverse-transcribing viruses

代表例のウイルス

B型肝炎ウイルス

ウイルスはどうやって増える?

ウイルスによって細かな仕組みは異なります。しかし、多くのウイルスでは、感染から増殖までに共通する流れがあります。まず、ウイルスは感染できる細胞を見つけます。次に、細胞の表面にある分子などを利用して、細胞へ付着します。細胞へ侵入すると、ウイルスの遺伝情報が細胞内で働き始めます。その情報をもとに、新しいウイルスの部品がつくられます。つくられた部品と遺伝情報が集まり、新しいウイルス粒子が形成されます。そして、新しいウイルスが細胞から出て、別の細胞へ感染していきます。

大まかにすると、見つける→ 入る→ 遺伝情報を使う→ 部品をつくる→ 組み立てる→ 広がる という流れです。

ただし、侵入方法や細胞から出る方法は、ウイルスによって異なります。この違いを研究することが、ウイルスの性質を理解することにつながります。

感染する相手は、ウイルスによって違う

すべてのウイルスが、すべての細胞へ感染できるわけではありません。ウイルスには、それぞれ感染しやすい生物や、感染しやすい細胞があります。この違いには、細胞表面の「受容体」などが関係しています。

受容体は、本来は細胞同士の情報伝達などに使われる、細胞側の分子です。一部のウイルスは、この受容体を細胞へ入るための入口として利用します。細胞側に利用できる受容体がなければ、感染が成立しにくい場合があります。ただし、感染できるかどうかは、受容体だけで決まるわけではありません。細胞内の環境や免疫反応など、さまざまな条件が関係します。

この「どの細胞に感染できるのか」という性質は、がん治療への応用を考えるうえでも重要です。

ウイルスは、病気を起こすだけなのか

ウイルスの研究は、感染症を理解し、防ぐために発展してきました。

現在では、その知識を利用して、ウイルスを医療に役立てる研究も行われています。たとえば、遺伝子治療では、遺伝情報を細胞へ届ける「ベクター」として、改変したウイルスが利用されることがあります。ワクチンの研究でも、ウイルスの性質が利用されています。

さらに、がん細胞へ感染し、がん細胞を壊すウイルスも研究されています。これを「腫瘍溶解ウイルス」と呼びます。腫瘍とは、細胞が異常に増えることでできる組織のかたまりです。腫瘍溶解ウイルスの一部は、すでにがん治療として臨床で利用されています。一方で、どのウイルスがどのがんに適しているのか、まだ研究段階にあるものも多くあります。安全性や効果を高めるための研究も続いています。

ここでは、「ウイルスが医療に利用できる」こと自体は確立した事実と、「特定のウイルスをどう改良すれば、より安全で効果的ながん治療になるか」は研究中という点を分けて考える必要があります。

このサイトで扱う「麻疹ウイルス」

このサイトで中心となるのは、麻疹を引き起こす「麻疹ウイルス」です。

麻疹ウイルスも、本来は病気を起こすウイルスです。しかし、その感染の仕組みを詳しく調べる中で、がん治療への応用も研究されてきました。

なぜ麻疹ウイルスが、がん細胞へ感染できるのでしょうか。なぜ感染したがん細胞は、壊れていくのでしょうか。そして、本来は病気を起こすウイルスを、安全な治療へ変えることはできるのでしょうか。その答えを理解するためには、まず麻疹ウイルスそのものを知る必要があります。

関連する用語

細胞ウイルス遺伝子DNARNA感染 宿主 受容体 がん細胞

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02|麻疹ウイルスについて知る

細胞を見つけ、入り込み、増えていく精巧なしくみ